9月9日は重陽の節句!菊の伝統文化のたしなみと漢方薬のお話

「新型コロナウイルスが引き起こす肺炎について、今知っておきたいこと」という内容で始まった「Naturalist Web Magazine」。営業自粛になり、皆様にお会いできる機会が失われてしまった中、私たちの知識や経験が少しでも皆様のお役に立てばという思いでスタートしたブログも、今回で20回目を迎えることができました。

皆様から、記事に関する嬉しいお言葉などを頂き、ここまで続けることができました。本当にありがとうございます。まだまだ、コロナウイルスに対する心配は続いておりますが、私たち自然の薬箱は、これからも皆様が健やかに過ごせるお手伝いが出来ればという思いを込めて、様々な情報をお届けしてまいりますので、引き続きご愛読いただければ幸いです。

それでは、今週の Vol.20 もぜひご覧ください。

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皆さん、明日9月9日は『重陽の節句(ちょうようのせっく)』だということをご存知でしたか?

平安時代に中国から伝わったといわれる五節句。重陽の節句は、五節句の中でも一番最後の節句であり、とても大きな意味を持つ節句でもあります。また、別名「菊の節句」とも呼ばれており、古来より菊の薬効を取り入れながら健康を願う日でもありました。

そこで、今回は重陽の節句の由来や楽しみ方、そして菊の様々な薬効を、自然の薬箱 漢方薬剤師  千田 のぶこ よりお届けいたします。

せっかくの一年に一度の特別な日です。健康に対する備えでもあった優雅な伝統文化に触れてみませんか?

< 目次 >

1.重陽の節句ってどんなもの?

2.どうして「菊」が重陽の節句の象徴なの?

3.重陽の節句に取り入れたい!「菊」のたしなみ方

4.漢方の視点で見る「菊花」の効能とおすすめ漢方薬


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1.重陽の節句ってどんなもの?

重陽の節句は、桃の節句や端午の節句と比べると、現代の日本ではあまり知られていませんが、NWM_No.11でも紹介させていただいた、五節句のうちのひとつ。

中国の思想に端を発した陰陽思想においては、奇数は陽の数でありますが、奇数が重なると偶数が生まれます。偶数は陰の数字であるため、その邪気を祓うために行っていた行事が五節句のルーツと考えられています。中でも、陽数の中で一番大きい極みの数である「九」が重なる日を「重陽」と呼び、五節句の中でも一番大きな意味を持つ節句としました。

重陽の節句は、別名「菊の節句」ともいわれ、邪気を払い長寿を願って、邪気を払う力があるとされている菊の花を飾り、菊の花を浮かべた菊酒を酌み交わして祝います。

また、重陽の節句前夜には、菊の花に綿をかぶせて香りを移し、夜露や朝露をしみこませた菊の被綿(きせわた)を作り、その綿で顔や身体をなで、長寿や若返りを祈ったそう。その様子は古くは『枕草子』や『源氏物語』『紫式部日記』にも記されており、いにしえの時代より長寿を願う重要な節句として優雅な行事が執り行われてきました。

ちなみに、白の菊には黄色の真綿を、黄色の菊には赤い真綿を、赤の菊には白い真綿を被せるそうです。東京の大宮八幡宮では、今年も今日(9月8日)から菊の被綿の行事が行われ、飾りは22日まで公開されるようです。歴史ある料亭などでは、菊被綿を模したしつらえをしたりするところもあるようですね。


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2.どうして「菊」が重用の節句の象徴なの?

「重陽の節句」に欠かすことができない菊。秋には様々な花が咲きますが、どうして「菊」が重陽の節句を象徴するものになったのでしょうか?

菊といえば、日本では観賞用として楽しむ他、仏様にお供えするお花というイメージがありますね。これは菊は邪気を払う力が強いからとだいわれています。古来から中国では、菊は仙境に咲く花で破邪延寿の効能があると信じられていたこと、旧暦の9月9日は今の10月にあたり、菊が最も美しく咲く季節であることも重なり、長寿を願う重陽の節句を象徴するお花となったのです。

また、古来より邪気払いとして重宝されてきた菊ですが、今でも菊の花がお刺身のツマとして飾られていますよね。これはただの飾りではなく、菊花の抗菌作用や解毒作用を利用した先人の知恵からはじまったもの。食用菊は苦味が少ない上に、香りとほのかな甘味があります。菊の花びらをちぎり、お刺身の上にのせて食べれば、香りもよくシャキシャキとした花びらの食感も楽しめますので、ぜひお試しください。菊の花は食品としても優秀で、ビタミンB₁やビタミンEなどが豊富な上、抗酸化作用を持つポリフェノールを含みます。

食用菊は愛知県が全国一の生産地で、現在70件ほどの農家さんの手によって育てられています。次に生産量の多い東北地方では、菊の花を蒸して海苔状に乾かした菊花海苔があり、酢の物やちらし寿司などに使われています。

ちなみに、菊の花の花言葉は「高貴」「高尚」「高潔」。その昔、後鳥羽上皇が菊をこよなく愛し、自分のしるしとしても菊を用いたことがきっかけで「菊の御紋」が天皇や皇室を表す紋章となったといわれています。また、打掛や着物に描かれる吉祥文様にも菊の花が描かれています。古来より多くの人に愛されていた花なんですね。


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3.重陽の節句に取り入れたい!「菊」のたしなみ方

様々な言い伝えや効能がある菊は、今はもっとも身近な食用花の一つです。前項で菊のお花が食文化として、意外に身近にあったことを知っていただきました。ここでは、重陽の節句のたしなみ方にならって、ご家庭での楽しみ方をいくつかご紹介いたします。いずれも気軽に取り入れらえるものばかり。節句だけでなく、日々の生活の中に取り入ることもできますよ。

<菊酒>
本来は、お酒に菊を漬けてその香りや風味を移した菊花酒を作ります。もっと手軽に楽しむなら、食用菊の花びらを蒸したり、お湯で戻した生薬の菊花をお酒に浮かべる方法もあります。菊の香りを楽しめる粋なお酒になります。

※生薬の菊花は、自然の薬箱で20g(540円税込)から、1F漢方薬局でお買い求めいただけます。

 

<栗ご飯と菊の酢の物>
宮中では菊の節句と呼ばれていた重陽の節句ですが、庶民の間では「栗の節句」とも呼ばれ、栗ご飯を食べてお祝いをしていました。秋の味覚を堪能できる栗ご飯を、食卓に並べるのも良いですね。菊の酢の物や、食用菊が手に入らないときは、かぶらで作る菊花かぶらを飾っても素敵な一品になりますよ。

 

<菊の和菓子>
重陽の節句の頃には、菊を模した生菓子が和菓子店に並びます。美しい色と形、上品な甘さが嬉しい菊の練りきり。様々な菊の形が表現されていますので、食後のデザートやお茶請けにおすすめです。

※自然の薬箱ではこの秋、瀬戸のお菓子職人さんを招いて、ハサミ菊という伝統の技を体験できる和菓子づくり講座を企画中。近々ホームページで紹介する予定ですので、お楽しみに。

 

 

<菊の薬膳茶>
菊花は薬膳茶としてもお楽しみいただけます。烏龍茶や緑茶に菊花とクコの実を入れると、菊のお花がふわっと広がり、赤いクコの実が映える美しいお茶になりますよ。菊花には目の疲れをとり、肝臓の働きを高めるデトックス効果があるので、デスクワークやスマホで目が疲れた時や、お酒を飲みすぎてしまったときにもおすすめです。

※ティーポットや急須に菊花1〜3gに熱湯200〜300ccを加え、蓋をして3~5分置いてから飲みます。クコの実の他、薄荷、決明子(ハブ茶)、金銀花(スイカズラの蕾)、大棗(ナツメの実)など薬能に合わせてブレンドできます。


<菊のお花を飾る>
菊のお花は、最近は品種改良が進み、スタイリッシュな色や形のものを多くみかけます。和風にも洋風にもアレンジできるものが多いので、テーブルやリビングに飾ってみてはいかがでしょうか。

また、キク科のお花はとても種類が多いので、野外で摘んだキク科の野の花を可憐に飾ったり、いにしえに思いをはせながら菊の被綿を作って見るのも素敵ですね。

 

<菊花風呂>
綿の袋や、大きめのだしパックなどに生薬の菊花や、食用菊を入れてお風呂に浮かべます。菊の香りでリラックスしたバスタイムが過ごせますよ。

 

<菊花枕>
乾燥した菊の花をサシェ(小袋)に入れて、枕元にしのばせます。昔から頭痛のあるときに利用されてきました。

 


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4.漢方の視点で見る「菊」の効能とおすすめ漢方薬

重陽の節句で重要な役割を持つ菊は、漢方でも重宝されている生薬の一つです。一体、菊の花にはどのような効能があるのでしょうか。

前回のNWM_Vol.19で登場した「くるみ灸」でも、菊の花のエキスが使われていましたが、東洋医学では、「菊花(きっか)」と呼び、目を健やかにする明目作用のある生薬として知られています。その他にも、解熱、解毒、鎮痛、消炎、アンチエイジング、リラックス作用のある生薬として、発熱、 頭痛、 咳嗽、 咽痛、 目の充血、 目のかすみ、 視力減退、 ものもらい、めまい、 ふらつき、不眠などの症状に用いられます。

菊花が配合された漢方薬には、杞菊地黄丸、釣藤散、清上蠲痛湯、滋腎明目湯、洗肝明目湯などがあり、いずれも頭部や目に不調があるような症状に用いられます。

漢方相談でも、目や頭部の症状に悩まれている方はとても多く、菊配合の漢方薬は大いに力になってくれますので、漢方相談薬局でお気軽にご相談ください。お客様一人一人の体質や体調に合わせて、適切な処方をご案内いたします。

漢方処方 適 応
杞菊地黄丸

(こきくじおうがん)

体力が低下気味で、目を使い過ぎて目に栄養が届きにくく、目が疲れやすい状態に用いる処方です。随伴症状として、疲れると手や足の裏がほてり、イライラしやすい、口が渇く、排尿困難、目の疲れ、かすみ、充血などを伴う方に使われます。
釣藤散

(ちょうとうさん)

頭痛、頭重感、肩こり、めまい、ふらつき、のぼせ、耳鳴り、目の充血、目のかすみ、手足のふるえ、不眠などに用いる処方です。起床時やイライラした時に、血圧が高くなる方や、更年期の不調、動脈硬化の傾向がある方に適しています。また、心下部のつかえや食欲不振などの消化器症状がある場合にも使われます。
清上蠲痛湯

(せいじょうけんつうとう)

頭部(上部)の熱を発散して、痛みをとり去る(蠲には除き去るの意)という名前が表すように頭痛に使う処方です。かぜをひいた時に起きるものから、原因不明の片頭痛や群発頭痛まで、体質をあまり考えずに幅広く用いることができます。のぼせ、頭重、気が滅入る、目がチカチカする、目の周囲から奥の方が痛むなどの症状を伴う頭痛にも適しています。また、三叉神経痛などの顔面痛、眼痛、歯痛、ヘルペス後の後遺症にも使えます。
滋腎明目湯

(じじんめいもくとう)

体力が低下して血流が悪くなり、眼に栄養が充分に行きわたらなくなったことが原因で起こる目のかすみ、疲れ、痛み、ドライアイなどの症状に使う処方です。眼底出血、網膜症、白内障などにも用いられます。
洗肝明目湯

(せんかんめいもくとう)

頭部に熱がこもっていることによって起こる目の充血、腫れ、疼痛などの症状に使う処方です。目の急性炎症から慢性化した目の乾燥にも用いることができます。コンタクトレンズやパソコン作業などでの目の負担よる症状や、花粉症などのアレルギーによる目のかゆみ、ベーチェット病などの目の乾燥や痛みにも使われます。

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今回は、重陽の節句とたしなみ方、そして菊花が持つ効能と漢方薬のお話をお届けしましたが、いかがでしたか?

菊花は他にも、私達日本人の象徴に使われていたりします。皇室の菊のご紋章、警視庁の徽章、国会議員の議員バッジ、わたしたちが海外に持っていく日本国パスポートの表紙もそうですね。この秋、菊の花に愛着を持っていろいろ利用していただければ嬉しく思います。

本来は旧暦の9月9日の秋本番に行われていた「重陽の節句」ですが、日本では現在の暦に合わせて楽しむようになっています。まだ暑い日は続いていますが「重陽の節句」を楽しんで、ひと足先に秋の伝統文化に触れてみませんか?

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「Naturalist Web Magazine」お届け内容は、いずれも知識と経験豊富な自然の薬箱スタッフが、 自信を持ってお勧めする内容ばかり。「Naturalist Web Magazine」の更新は、毎週火曜日を予定していますのでぜひご覧ください。どうぞお楽しみに。

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次回の「Naturalist Web Magazine_Vol.21」では、

まだまだ注意!秋の脱水」をお届けします。

猛暑の8月が終わっても、まだまだ脱水に注意!実は、秋から冬にかけても脱水症状が起こるのです。今回は、脱水による体への影響、効果的な水分補給の方法などを紹介していきます。9月以降もしっかりと水分補給をして、元気に過ごしていきましょう。

※ 次回予告内容は、変更になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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過去の<Naturalist Web Magazine>バックナンバー

Vol.19_季節の変わり目に知っておきたい!自律神経と目の関係って?

Vol.18_ブルーの精油『ジャーマンカモミール』の涼し気なアロマソープを手作りしよう!

Vol.17_残暑を乗り切るために!脾胃(ひい)を整えるための薬膳のススメ

Vol.16_ステイフォーム中にチャレンジ!コロナ太りを解消するには?

Vol.15_夏バテしている場合じゃない!夏に役立つ漢方薬

Vol.14_鍼灸師おすすめ!夏のマスク不調の解消&予防法!

Vol.13_健やかで美しい暮らしのためのあれこれ

Vol.12_薬膳で暑気払い!酷暑を乗り切ろう!

Vol.11_知っておきたい!東洋医学の知恵と夏の過ごし方

Vol.10_お顔と頭のツボでリフレッシュ!

Vol.9_今だから知っておきたい!運動と免疫の関係って?

Vol.8_ 手指消毒の手荒れが気になる今!ハンドケアアイテムを手作りしよう!

Vol.7_むくみを解消!内湿を取るための薬膳

Vol.6_長期戦に備えよう!慢性疾患のある方も必見!身体を整えるための漢方薬

Vol.5_巣ごもり不調を改善!〜セルフお灸のススメ<応用編>~

Vol.4_お灸で免疫機能アップ!~セルフお灸のススメ<基本編>~

Vol.3_ストレスに負けない!心と身体を作る小さなアイデア 

Vol.2_腸活で<免疫機能>をキープ&アップ! 

Vol.1_知っておきたい!肺炎と免疫機能のこと 

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