ちょっと気が早いけれど、お屠蘇のお話

明日からは12月がはじまりますね。街中も少しずつ日常を取り戻し始めていますが、新たな変異株の情報も出ていますので、引き続き感染対策はしっかりと行っていきたいものです。

毎週火曜日にお届けしております、自然の薬箱の「Naturalist Web Magazine」。

皆様が穏やかな日常を取り戻せるその日まで、健やかに過ごせるお手伝いが出来ればという思いを込めて、Vol.83をお届けいたします。

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百貨店やスーパーでは、クリスマスやお正月の準備コーナーが目につくようになりましたね。自然の薬箱でも、毎年恒例のクリスマスツリーの飾りつけも終わり、森のクリスマスをイメージしたエントランスになっています。そして、来年のお正月に向けて、少し気が早いと思われるかもしれませんが、年末恒例の「屠蘇散(とそさん)」も登場しています。

お屠蘇といえば元旦に飲むお祝い酒ですが、実は、「屠蘇散」という漢方薬が浸け込まれているのが本当のお屠蘇だということをご存知の方は、少ないかもしれません。

何故、元旦に「屠蘇散」に漬け込まれたお酒を飲むようになったのでしょう?意外と知らないお屠蘇の伝統や漢方薬としての作用、お作法など、新しい年の無病息災を願ってぜひとも召し上がって頂きたい「屠蘇散」を使った「お屠蘇」について、お伝えします。

自然の薬箱がアレンジした、現代版「お屠蘇の作法」もご紹介していますので、2022年の元旦は、本物のお屠蘇で新年をお祝いしてみませんか?厳かな気持ちで、お正月が過ごせますよ。

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<目次>

1. お正月に飲むお祝い酒「お屠蘇」とは

2. 無病息災を願う「屠蘇散」とは

3. 実は簡単!お屠蘇の作り方

4. お屠蘇の作法、知ってますか?


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1.お正月に飲むお祝い酒「お屠蘇」とは

明日からいよいよ12月、師走に入ります。「師走」の意味は、僧が経をあげるために東西を馳せるということに由来するという説が一般的です。「師走」の別名として、「春待月」や「三冬月」といった風情ある月名もありますが、年末のあわただしさには「師走」という月名がしっくり来るのかもしれません。

そんな中、あわただしく、あっという間にやってくるのがクリスマスとお正月。自然の薬箱でもクリスマスツリーの飾りつけと併せて、毎年恒例の「屠蘇散(とそさん)」が店頭に並びました。

新しい年の始まりを祝う大切な日に頂くお屠蘇。元旦の朝、おせち料理を頂く前に飲みますが、ただ「日本酒を飲みかわす」といったものではありません。本来のお屠蘇は、日本酒やみりんなどに「屠蘇散」という漢方を漬け込んだ薬酒なのです。

お屠蘇の「屠蘇」には「邪気を屠(ほふ)り、魂を蘇らせる」という意味があります。「一人これを飲めば一家病無く、一家これを飲めば一里病無し」といわれるように、元旦にお屠蘇を飲むと、この一年の無病息災が得られるといわれて、古くからふるまわれてきました。

お屠蘇の発祥は中国。 三国時代の魏の名医・華蛇(かだ)が考案したという説が有力ですが、諸説あるようです。日本へは平安時代に伝わり、宮中の正月行事として定着し、やがて江戸時代に一般庶民にまで広まったといわれています。ちなみに、現在の中国ではこの文化はみられないようです。


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2.無病息災を願う「屠蘇散」とは

では、お屠蘇にもちいる「屠蘇散」とはどのようなものなのでしょうか?

屠蘇散は、屠蘇延命散ともいわれ、5~10種類ほどの生薬を調合したものです。
屠蘇散の基本となる生薬は、白朮(びゃくじゅつ)・防風(ぼうふう)・桔梗(ききょう)・桂皮(けいひ)・山椒(さんしょう)の5種です。これら5つの生薬を簡単に説明しますね。

① 白朮(びゃくじゅつ)

キク科の多年草オケラの根茎。大晦日に京都の八坂神社で行われるオケラ詣りに使われたり、万葉集の中にも歌われている植物です。健胃、整腸や水分代謝を促す働きがあります。
(写真はオケラの花)

 

② 防風(ぼうふう)・浜防風(はまぼうふう)

セリ科のボウフウまたは、ハマボウフウの根と根茎。防風の名の通り、風邪薬として使われ、解熱、鎮痛、鎮痙、発汗作用があります。ハマボウフウの外皮をとった根は「北沙参(きたしゃじん)」と呼ばれ、肺を潤す働きがあるとされ、口渇などにも用いられます。自然の薬箱のお屠蘇には、浜防風が使われています。(写真はハマボウフウ。若葉を刺身のツマや兎のものにもしますよ)

 

③ 桔梗(ききょう)

キキョウ科のキキョウの根。秋の七草に朝貌(アサガオ)として挙げられ、喉の炎症をとったり、痰をきり、毒を排出する作用があります。(写真はおなじみのキキョウの花)

 

④ 桂皮(けいひ)

クスノキ科のケイの樹皮。シナモンといったほうがよくわかりますね。健胃、解熱、鎮静作用や体を温める作用、発汗作用などがあります。(写真はケイの新芽)

 

 

⑤ 山椒(さんしょう)

ミカン科のサンショウの果皮。葉や実は食用や香辛料として使われていて馴染みがありますね。健胃作用や発汗作用があります。(写真はサンショウの実)

これらに更に薬能を加えたり、味を整えるために数種の生薬が加わった、様々な処方の屠蘇散がありますが、基本の5つの生薬には、風邪を防ぎ、胃腸の機能を整え、体を温める作用があり、お正月の寒い季節を健康に過ごす知恵が詰まっているといえます。

自然の薬箱の屠蘇散には、上記のほかに以下の生薬も配合され、美味しい処方になっています。

⑥ 陳皮(ちんぴ)

ミカン科のウンシュウミカンの果皮。気のめぐりを良くしてリラックスさせる作用、健胃作用、鎮咳・去痰作用、毛細血管の保護や血流改善の作用、抗酸化作用などがあります。近年では、含有成分のノビレチンに痴呆予防の効果が期待されています。(写真はおなじみの温州みかん)
 

⑦ 山帰来(さんきらい)

ユリ科のサルトリイバラの塊茎。捨てられた病人が山から帰ってきた逸話にこの名前の由来があります。赤い実は、クリスマスリースに用いられたり、丸い葉は塩漬けして、さんきら餅を包むのに使われており、馴染みのある植物です。生薬の山帰来には、排膿解毒作用があり、腫れものやニキビなどに用いられます。※日本では、サルトリイバラを山帰来と呼びますが、中国の生薬名ではバッカツ。中国における山帰来は、生薬名を土茯苓(どぶくりょう)といい、ケナシサルトリイバラ(ユリ科)を用います。(写真は、サルトリイバラ。サンキラ餅の葉っぱの形、クリスマスリースに使われる赤い実でご存じの方も多いのでは?)

自然の薬箱の「延寿屠蘇散」は1袋324円(税込)で販売中です。年末のちょっとしたご挨拶にもおすすめですよ。店頭でお気軽にお声掛けください。


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3.実は簡単!お屠蘇の作り方

屠蘇散を使うと漢方薬の味がするお酒になるのでは?と、苦手意識を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。でも、実際は「風味があってなかなか美味しく飲める」と、毎年楽しみにされている方が多くいらっしゃるんですよ。

さらに、初めて屠蘇散を使ったお屠蘇を飲まれたお客様が「体があたたまる」と、お正月を過ぎた後でもお求めに来られることもあるほど。

でも、初めて屠蘇散を使ったお屠蘇を作ろうと思っても、どうしたらいいのかわからないですよね。そこで、初めての方でも安心!屠蘇散を使ったお屠蘇の作り方をご紹介します。

【材料】
・屠蘇散
・お好みの日本酒
・本みりん(料理用のみりんだと塩分が入っている場合があるので注意)

【作り方】
◎酒または、お酒と本みりんを混ぜたものに、屠蘇散を浸します。酒を多くすると辛口な仕上がりに、本みりんの割合が多いと甘口でまろやかな味わいになります。本みりんだけのものでも大丈夫です。
◎屠蘇散は、大晦日の夜に漬け込み、抽出が終わったら屠蘇散を取り出します。市販の屠蘇散は、ティーバッグになっているものが多いので簡単です。

日本酒が苦手な方は、白ワインに漬け込んでもOK。洋風のお屠蘇が出来上がります。また、アルコールが苦手な方は、赤ワインや白ワインに屠蘇散を入れた後、火を入れてアルコールを飛ばしてホットワインにしてみてはいかがでしょうか。このホットワインお屠蘇は、おすすめのお屠蘇です。オレンジジュースで割っても良いですね。

他にも、醤油に漬け込んでつくる薬膳醤油や、紅茶と煮出してミルクとお砂糖を加えて「お屠蘇チャイ」にして楽しむこともできますよ。

これらは、伝統的な飲み方とは異なりますが、薬酒としての意味は十分あります。屠蘇散をお正月に使い切れなかった場合にもおすすめです。


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4.お屠蘇の作法、知ってますか?

今では様々なスタイルで楽しめるお屠蘇ですが、いにしえの時代にはお屠蘇の作法が存在していました。現代ではこのような作法を見かけることはほとんどありませんが、古来から続く伝統の形をご紹介しますね。

<お屠蘇の作法>

① 大晦日の晩に、屠蘇散が入った袋を井戸の内側に吊るしておきます。
三角形に縫った赤い絹の袋とされています。一晩吊り下げられた屠蘇散は、元旦の早朝に取り出して、酒もしくは味醂に浸します。

② 元旦、若水(※わかみず)で手を清めます
初日や神棚、仏壇などを拝んだあと、家族全員そろって新年の挨拶を行います。
※わかみず:元旦の早朝に井戸や湧き水から汲んだ水。一年の邪気を払う縁起のよい水とされる

③ その後、雑煮やおせち料理をいただく前に、お屠蘇を飲みます。
そのとき使われる※屠蘇器(酒器)は、朱塗りまたは白銀や錫などのお銚子と、朱塗りの三段重ねの盃を使います。
※屠蘇器のあれこれや、屠蘇器を使ってのお作法についてご興味のある方は、こちらもご覧ください。(参照先:白木屋結納店)

④ はじめに最年長者が最年少者に注ぎます。
お屠蘇をいただくときは、一家揃って東の方角(日の出の方角)を向きます。飲むときには「一人これを飲めば一家病無く、一家これを飲めば一里病無し」と唱えてから飲みます。

⑤ 飲み干したら、その人が次に若い人に注ぎ、盃を進めていきます。
若者の元気を年長者へ渡すという意味合いがあるとのこと。厄年の人は最後に飲みます。これも、厄年以外の人から厄を祓う力を分けてもらうという意味があるそう。

⑥ 正月三が日の来客にお屠蘇をすすめ、新年のお祝いの挨拶を交わします。
松の内が過ぎたら、屠蘇散の薬かすを元の井戸の中に投げ入れます。この井戸水を飲めば一年の間、無病でいられるとされています。

いかがですか?やはり、現代の私たちにはハードルが高いので、もう少し気軽に一年の無病息災を祈ってお屠蘇を楽しみたいですよね。でも、せっかくのお正月ですから、少し参考にしながら厳かな気分を味わってみるのも良いと思います。

そこで、最後に「簡単にお屠蘇を楽しむ方法」をお伝えします。

①元旦の早朝、1番最初に汲んだ若水(水道水でもOK)で手を清め、若水を神棚や仏壇にお供えして拝み、家族が揃ったら新年のあいさつを済ませます。

②お屠蘇はおせちを食べる前にいただきます。素敵な屠蘇器があればよいですが、なくても通常の日本酒の器で十分です。

③飲む時は家族そろって東の方角を向き、最年長者が最年少者に注ぎ、飲み干したら、その人が次に若い人に注ぎ、盃を進めていきます。厄年の人は最後に飲みます。飲めない人は飲むふりだけでOK。(このご時世なので、盃の回し飲みは避けたほうが良さそうです)

現代を生きる私たちでも、手軽にできる現代に合わせた作法で、新年最初の日をスタートしてみてはいかがでしょうか?

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今回は、元旦の日に飲む「お屠蘇」についてお届けしました。

色々ありすぎた2021年に別れを告げ、新たに迎える2022年はすぐそこまでやってきています。新しい年の始まりの日に「無病息災」を願いながら伝統的なお屠蘇を楽しんでいただければ嬉しいです。

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<次回「Naturalist Web Magazine」のお知らせ>

~12月7日(火)配信予定 ~
「Naturalist Web Magazine_Vol.84」では、

「コロナ生活での肌ケア ~冬のスキンケア&養生~」をお届けします。

少しづつ日常を取り戻し始めた今日この頃、マスクを外しての会食の機会が増えて、お肌の状態が気になり始めた方も多いのではないでしょうか?

そこで、ここ数年の巣ごもり・マスク生活になれてしまって、「肌ケア」を少しだけ怠ってしまった方必見!自然の薬箱ビューティーアドバイザーによる、コロナ生活での「冬のお肌ケア+オススメアイテム」をご紹介します。あわせて、数量限定で発売中の「クリスマスコフレ」の情報もお届けいたしますので、お楽しみにお待ちください!

※ 次回予告内容は、変更になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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~「Naturalist Web Magazine」は、毎週火曜日の配信予定~

今後も、自然の薬箱ならではの様々な情報を予定しています。どうぞお楽しみに。

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