長期戦に備えよう!慢性疾患のある方も必見!身体を整えるための漢方薬

長かった緊急事態宣言期間。巣ごもり生活をされていらっしゃった方や、逆にとても忙しい日々を送られた方など、今までとは違う日常お過ごしになられたのではないでしょうか。自然の薬箱でも、期間中はカフェやボディケア、スタジオなどの業務は休業となり、漢方相談薬局のみの営業とさせていただいておりました。

営業しておりました漢方相談薬局では一時期、免疫関係の漢方や健康食品が売り切れたり、新型コロナウイルス感染症を心配する方からの漢方相談のお電話が増えておりましたが、現在はひと段落。外に視線を向ければ、自然の薬箱がある名古屋でも徐々に灯りがともり始め、人の往来も少しづつ増えています。

街も人も少しづつ前に進み始めていますが、それでも新型コロナウイルス感染症の心配がなくなったわけではありません。これから始まるウィズコロナの生活。私たちは、第二波、第三波に備えての長期戦を見据えておくことが必要ではないでしょうか。
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ウィズコロナ時代だからこそ知っておきたい「中医学」「漢方薬」のこと

そこで今回は、『長期戦に備えよう!慢性疾患のある方も必見!身体を整えるための漢方薬』と題して、コロナウイルスに負けないために身体を整える方法を漢方の観点からお伝えしたいと思います。

漢方の本場である中国では、<西洋医学>と漢方や生薬を使って治療を行う<中医学>が医療現場で両立しています。今回の新型コロナウイルス感染症の治療の7割以上に<中医学>による治療が利用され、良好な治療効果が認められたとの報告もあります。また、隔離された無症状感染者の発症率低下にも中医学での治療が役立ったとされています。

日本では、あまり漢方薬が注目されていないのは残念なことですが、中国と日本では漢方薬の種類や剤形も異なり、さらに漢方の特性上、体質や体調などによっても合う漢方薬や生薬が異なってきます。そのため、どの様に利用したらよいのかがわかりにくいこともあり、注目されにくい原因のひとつと思われます。

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そこで今回の「NWM Vol.6」は、

少し長くなりますが<中医学による予防の観点から>、以下の内容をお伝えしたいと思います。

◎新型コロナウイルス感染症をどの様に捉えるのか

◎これからの梅雨の季節に注意すべき点

◎体質や体調で気をつけるべき点

健康管理の一つとして、ご自分に合った漢方薬や生薬を取り入れていただく参考にしていただければ幸いです。

※ 今回ご紹介する漢方薬や生薬は、新型コロナウイルス感染症に対する有効性が認められているものではありません。体調を整えることにより感染予防や重篤化を回避する方法として、長期戦に役立てていただく内容となっていますので、あらかじめご了承ください。

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<目次>

1.中医学における新型コロナウイルス感染症の捉え方と対策

2.ウィズコロナ時代だからこそ!梅雨の季節に注意すべき点と対策

3.今だから知っておきたい!免疫機能を保つための漢方薬や生薬

4.新型コロナウイルスで注目!「血栓」の注意すべき点と対策


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1.中医学における新型コロナウイルス感染症の捉え方と対策

中医学では、多くの場合感染症には【湿邪しつじゃ=体に悪影響を及ぼす湿気】が関わると考えられています。今回の新型コロナウイルスにおいても初期症状として体の重だるさ、倦怠感を伴うことなどが特徴でした。そこで、感染した患者の舌を見ると、厚くべったりしたビロード状の苔(厚膩苔こうじたい)が多く見られたことから、【湿邪】(しつじゃ)が関連する病態との見解が示されています。 

また、肺をはじめ血管などの内臓や組織を傷害する力が強いという特徴もあり、より強い【毒邪】の特徴を示すことから、【湿毒疫】(しつどくえき)であると言われています。従って、初期の漢方治療においては、体に溜まる湿気をとる【化湿】(かしつ)と発熱や炎症をとる【清熱解毒】(せいねつげどく)が中心となります。

さらに、舌の所見で厚膩苔(こうじたい:湿の所見)と、裂紋舌(れつもんぜつ:舌にひび割れができる陰虚の所見)が同時に見られるような場合は、長引く治療や闘病により、体液である【陰】(いん)を消耗してしまうことによる【陰虚】(いんきょ)が起こっていると考えます。このような場合は、潤いを補う【補陰】(ほいん)の治療も行う必要があります。 

従って、長期戦に備える体つくりにも、体に湿を溜めないこと、体液を適正に保つということが大切になります。

胃腸症状を伴う倦怠感の場合は【化湿】の働きのある漢方薬

藿香正気散
かっこうしょうきさん

 梅雨の時期の下痢などの胃腸症状によく使われる漢方薬です。中国での新型コロナウイルス感染症の治療において、この処方の配合生薬である藿香は、よく使われています。

香砂六君子湯
こうしゃりっくんしとう

 気と水の巡りを良くして、胃腸に停滞した湿をとり、消化機能を高め元気をつける漢方薬です。
逆流性食道炎やストレス性の胃炎、少し食べるとすぐお腹が一杯になる方にもよく使われます。

竹茹温胆湯
ちくじょうんたんとう

咳や痰が多くて、神経が昂ぶって安眠ができないような場合に用いられます。 リラックスさせたり、体に潤いを与えながら、痰や膿を出す効果があります。

 

発熱を伴う倦怠感の場合は、【清熱解毒】の働きのある漢方薬・生薬

銀翹解毒散
ぎんぎょうげどくさん

発熱時の感冒薬としてよく使われます、体を冷やしすぎず、清熱解毒の働きがある漢方薬です。
板藍根
ばんらんこん
清熱解毒の働きを持つと同時に、免疫力を高める生薬として有名です。SARSが流行した際にも多用されました。日本では健康食品としても扱われます。

金銀花
きんぎんか

 清熱解毒の働きを持つ生薬です。銀翹解毒散などの漢方薬に配合されるほか、薬膳茶としても利用できます。


日頃から喉や鼻の粘膜が乾燥気味、喉痛などの風邪を引きやすい場合は【補陰】の働きのある漢方薬

生脈散
しょうみゃくさん

体に潤いを与え、疲労を回復する働きがあり、暑気あたりや夏バテにも使われる漢方薬です。


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2.ウィズコロナ時代だからこそ!梅雨の季節に注意すべき点と対策

もうすぐ始まる梅雨。あまり気持ちの良い季節ではありませんが、ひとつ朗報もあります。米国の国立生物兵器分析対策センター(NBACC)が新型コロナウイルスが太陽光の紫外線の他に、湿気にも弱いということを示唆しました。まだ真価のほどはわかりませんが、空気中の湿度が高いとウイルスの感染力を失う速さが早くなるという結果です。また、咳やくしゃみによって拡散するウイルスも湿度が高い場合、遠くまで飛ぶことができずに、床や地面に落下しやすくなります。さらに湿度の高さによって、感染経路である喉や鼻の粘膜が潤った状態に保たれ、ウイルスから体を守る力が高まります。

しかしながら、中医学では、新型コロナウイルス感染症は【湿毒疫】ととらえます。外気の湿度が高いことはウイルスにとって悪条件かもしれません。しかし、体の中の湿【内湿】は、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢あるいは便秘などの体調不良につながり、ウイルスの侵入を許しやすくなるので注意が必要です。これらの【内湿】による症状は、新型コロナウイルス感染症の患者にもよく見られる症状といわれています。梅雨の時期に、重だるさや下痢などの胃腸症状が出やすい方は、前述した体に余分な水分を溜めない【化湿】を意識したケアをしておくと良いでしょう。


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3.今だから知っておきたい!免疫機能を保つための漢方薬や生薬

長期戦に備えて、ご自身の体質や体調を考えた上でのケアも大切です。<中医学>では、身体を守る免疫機能を【正気】(せいき)、疾病の発病因子を【邪気】と呼び、正気を充実させて、邪気を祓うことを【扶正去邪】(ふせいきょじゃ)と呼び、病気の予防や治療の基本となります。NWMのNo.1では<正気を養う食材>を紹介しましたが、体力に自信のない方、慢性疾患をお持ちの方、感染リスクが高い職業の方は、漢方薬や生薬の利用もおすすめです。

【扶正】に働く漢方薬・生薬

玉屏風散
ぎょくへいふうさん

初期免疫と言われるIgA抗体を高める働きも報告され、体の表面で屏風のような盾になってくれる貴重な漢方薬です。体を整えることによって、外邪に強くなったり、アレルギー体質の改善にも用いられます。
生脈散
しょうみゃくさん
体に潤いを与えるとともに、元気にする漢方薬です。

補中益気湯
ほちゅうえっきとう

心身ともに疲れているときに元気をつける漢方薬です。

十全大補湯
じゅうぜんたいほとう

病中病後や、産後、貧血などを伴う場合に元気をつける漢方薬です。

西洋人参
せいようにんじん

血圧を上げることなく元気をつける生薬です。健康食品などで利用できます。

シベリア人参

抗ストレス作用が高い生薬です。健康食品などで利用できます。

シベリア霊芝

免疫バランスを整えるカバノアナタケという茸です。健康食品などで利用できます。

 

【去邪】に働く漢方薬・生薬

藿香正気散
かっこうしょうきさん

梅雨の時期の下痢などの胃腸症状によく使われる漢方薬です。中国での新型コロナウイルス感染症の治療において、藿香という生薬はよく使われています。
板藍根
ばんらんこん
清熱解毒の働きを持つと同時に、免疫力を高める生薬として有名です。SARSが流行した際にも多用されました。日本では健康食品としても扱われます。


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4.新型コロナウイルスで注目「血栓」の注意すべき点と対策

もともと慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、高脂血症や高血圧などの循環器系の疾患、糖尿病などの慢性疾患をお持ちの方は、特に体調を整えておく必要がありますが、さらにご注意いただきたいのが「血栓」による重症化のリスクです。

最近、新型コロナウイルス感染症と血栓症の関係に注目が集まっており、新型コロナウイルスに感染した患者のうち、重症患者の約30%に血栓(※1)が認められ、新型コロナウイルスによる症状の重症化に血栓症が関係していることがわかってきました。

※1.血栓とは
さまざまな原因によって血管の中にできる血の塊が血管をつまらせることを言います。血栓ができた先の組織への血流が途絶え、栄養が届かなくなってしまうため、組織が破壊されたり、正常な機能を失ったりして人体及び生命へさまざまな影響を引き起こします。
例えば、脳梗塞やエコノミー症候群(肺塞栓症)、心筋梗塞などがあります。


厚生労働省が5月18日に改訂した、医療従事者向けの『
新型コロナウイルス感染症(COVID−19)診療の手引き・第2版』でも、肺の血管が血栓で詰まることで呼吸器不全を引き起こす血栓症のリスクや、軽症や若年患者であっても血栓による合併症の重篤化リスクがあることが指摘され、血栓症を防止する治療の必要性が盛り込まれました。

新型コロナウイルス感染症による血栓症のメカニズムはまだよく分かっていませんが、現段階ではサイトカインストームや血管内皮の障害などにより、血液の凝固系に異常を起こすためと考えているようです。

わたしたちの体は、ウイルスに感染するとウイルスの侵入を知らせるためにサイトカインという生理活性物質を分泌しますが、ウイルスの量が多ければこのサイトカインが大量に放出されます。これをサイトカインストームと呼びます。このサイトカインストームにより、血液の凝固異常が過剰に起こることになり、普段よりも血液を固まりやすくしてしまうことが血栓症の理由の1つです。

そしてもう1つは、新型コロナウイルスそのものが血管の内側を傷つけることで、それを修復しようとして血栓を形成することが考えられています。

新型コロナウイルス感染症にかかった場合、軽症であっても血栓による合併症での重篤化リスクがわかっており、慢性疾患を持った方は特に血栓ができるリスクを抑えておくことが重要です。また、テレワークなどの生活様式の変化で下半身を動かす機会が減ることで、エコノミー症候群による血栓症リスクが高まるのも防止したいところです。

中国では、新型コロナウイルス感染症の治療において、丹参、赤芍、川芎、紅花、当帰の5つの生薬からなる「血必浄注射液」を用いた血流改善【駆瘀血】(くおけつ)の治療が行われています。日本で生薬製剤の注射剤は認められていませんが、【駆瘀血】の働きのある丹参製剤を始めとする漢方薬を利用することは可能です。慢性疾患の改善にも大いに役立ちますし、万が一感染した場合の重篤化の予防に有用と思われます。

【駆瘀血】に働く漢方薬・生薬

丹参製剤
たんじん製剤

丹参を含む駆瘀血作用を持つ漢方薬が利用できます。
血府逐瘀湯
けっぷちくおとう
高血圧傾向の方の頭痛、頭重、肩こり、のぼせ、動悸などの改善に効果がある漢方薬です。

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いかがでしたでしょうか?今回は<中医学による予防の観点から>、これからはじまるウィズコロナ時代を乗り越えてていくために知っておきたい「中医学」「漢方薬」について解説いたしました。

洋の東西を問わず、多くの医療関係者の努力により少しづつ解明されつつある「新型コロナウイルス」。

これからは、むやみに怖がるのではなく、様々な対策をしてウィズコロナ時代を乗り越えていくことが重要です。はじまりつつある「新しい日常」を安心して過ごすために、中医学の視点をとり入れてみてはいかがでしょうか。

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「Naturalist Web Magazine」お届け内容は、いずれも知識と経験豊富な自然の薬箱スタッフが、 自信を持ってお勧めする内容ばかり。「Naturalist Web Magazine」の更新は、毎週火曜日を予定していますのでぜひご覧ください。どうぞお楽しみに。

次回の「Naturalist Web Magazine_Vol.7」では、

「むくみを解消!内湿を取るための薬膳」をお届けします。

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あなたとあなたの大切な人を守るために、そして、新しい日常を楽しむために、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

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過去の<Naturalist Web Magazine>バックナンバー

Vol.5_巣ごもり不調を改善!〜セルフお灸のススメ<応用編>~

Vol.4_お灸で免疫機能アップ!~セルフお灸のススメ<基本編>~

Vol.3_ストレスに負けない!心と身体を作る小さなアイデア 

Vol.2_腸活で<免疫機能>をキープ&アップ! 

Vol.1_知っておきたい!肺炎と免疫機能のこと