「秋の憂い」を感じたときにおすすめ!「気」を整える漢方

先週末に近づいてきた台風は、秋台風とは思えないスローペースで迷走し、気象予報士でも最後の最後まで進路や勢力のつかめない台風になったそうです。まるで今年の世相を表しているようですね。

毎週火曜日にお届けしております、自然の薬箱の「Naturalist Web Magazine」。

皆様が穏やかな日常を取り戻せるその日まで、健やかに過ごせるお手伝いが出来ればという思いを込めて、Vol.25をお届けいたします。

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先週末はあいにくの天気となりましたが、10月1日の十五夜は幸いにも全国的に天気が良く、美しい月に癒された方も多かったのではないでしょうか。

旧暦では、秋は7月~9月の時期を指し、さらに「初・中・晩」の表現を用いて季節を表したそうです。旧暦の7月は「初秋」、8月は「中秋」、9月は「晩秋」と呼ばれています。旧暦の8月15日は旧暦の「秋」の真ん中にあたります。涼しくなり、秋晴れが続くころで、月がきれいに見える十五夜の満月を「中秋の名月」として、お月見を楽しむ習慣ができました。

そして、秋の中心を過ぎたこの時期を境に、自然界は「夏の名残」よりも「冬の足音」が意識される季節に移っていきます。日照時間も短くなり、朝はまだ薄暗く、夕方にはもう真っ暗に。すると、人間は本能的にやる気が出にくくなったり、活動が抑えられがちです。陰陽五行の考えでは、秋の乾燥は肺に影響を及ぼしやすく、肺と関わりの深い「悲」「憂」といった感情がコントロールしにくくなります。

体はどこも悪くないのに何となくやる気が出ない、何もしたくない、しても無駄…。

人と連絡とるのもちょっと億劫…。いつもこんな風じゃないのに、気のせいかな…。

といった感情が生まれやすく、何となく物悲しかったり、ふさぎがちになりやすい今の季節。さらに今年はコロナの影響で世の中が大きく変わったことが引き金となり、自分でも気づかないうちに心が疲弊してしまい、うまく気持ちをコントロールできないケースも増えているようです。

思い悩む事や何もしない事は悪い事ではありません。でも、そこで気持ちが停滞していたり、他に目を向ける余裕がないほどダメージを受けている状態が続くのはこころにはもちろん、身体にもよくありませんね。

そこで、今回の「Naturalist Web Magazine」では、前回に引き続き、「秋の憂い」がもたらす体調やこころの不調について、自然の薬箱の薬剤師 木村良栄から「秋の憂い」と大きくかかわっている「気」について解説いたします。

さらに、「気の低下」を解消し整えてくれる漢方薬を、身体的症状に合わせてご紹介。今 感じているこころと身体の不調に合った漢方薬を選ぶ指針になりますよ。

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<目次>

 1. 「気」ってなんだろう?

 2. 「気」ってどんな働きをしているの?

 3. 「気」の不調が引き起こす「気虚・気滞」って?

 4. 「気」を調整する漢方


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1.「気」ってなんだろう?

東洋医学では、人間の体は「気・血・水」の3つの要素から成り立っているといわれています。「気・血・水(き・けつ・すい)」は、「血≒血液」や「水≒体液」といった目に見える物質以外にも、目に見えない「気≒エネルギー」を捉え、「気・血・水」それぞれが持つ働きをも含めた意味を持っているという東洋医学独特の概念です。

「血、水」は、物質的な側面の「血液」と「体液」として理解しやすいものですが、「気」は捉えにくい概念ですよね。

イメージとしては、ひと昔前のアニメで敵をやっつける時に手から放たれる光のパワー、あれも「気」です。わかりやすいような、でも少し胡散臭く感じる方も多いかもしれません。でも、そこまで大げさなものではなく、生きている限り常に私たちの身体の中を巡っていて、体温を作り出したり、体内の「血」や「水」の流れを整えて全身に巡るように調整しているのが「気」なのです。

例えば、嬉しいことがあると身体が軽くなりますが、嫌なことがあると身体が重くなり、免疫力が下がって体調を崩しやすくなることは、どなたでも経験したことがあると思います。これは、身体を巡っている「気」が少なくなったり、巡りにくくなることで、「気」の力を借りて巡っている「血」や「水」も停滞してしまうためと考えられます。

今でこそ、西洋医学でも心療内科という分野が定着してきましたが、東洋医学では、古来から西洋医学では扱われなかった概念である「気」を重要視して理論立ててきたのです。


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2.「気」ってどんな働きをしているの?

私たちの身体を巡り、様々な働きをしている「気」は、どのような働きをしているのでしょうか?

①推動(すいどう)作用
主に血や水を身体中に巡らすはたらきです。また、成長発育にも関わり、五臓が活発に動くための原動力です。

②温煦(おんく)作用
身体を温めるはたらきです。気によって体温は一定に保たれます。「煦」の文字は「あたためる」を意味します。

③防御(ぼうぎょ)作用
害となる環境要因、つまり外邪から身体を守るはたらきです。気が充実していれば免疫機能が整います。

④固摂(こせつ)作用
必要なものを保持するはたらきです。血液や体液、汗や尿などが必要以上に漏れ出ないように、また、内臓を正しい位置に留めます。気が不足すると、不正出血や内出血、暑くない時の発汗、内臓下垂などが起こります。

⑤気化(きか)作用
ある物質を他の利用可能な物質に変化させる働きを持ちます。例えば、食物の消化、吸収、分解や、体液から汗や尿を作り排泄することなどを指します。

このように、「気」は私たちの身体の隅々までいきわたることで、多彩なはたらきをしてくれているのです。

では、「気」が不足したり「気」の流れが乱れるといった「気の不調」が起きることで、どのような症状が現れるのでしょうか?


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3.気の不調が引き起こす「気虚・気滞」って?

私たちの生命の営みに欠かせない「気」の不調は、こころや体に様々な不調となって現れます。

「気」は、体内に適切な量が保たれ、血、水と関わりながら全身を巡っている状態が良い状態とされます。何らかの原因で気が不足してしまった状態を「気虚(ききょ)」、流れが滞った状態を「気滞(きたい)」と呼びます。これらの状態ではストレスをうまく処理する事が難しくなり、いずれも、うつ症状の原因になりうると考えられています。

「気虚」では、疲労倦怠、無気力、精神不安定や不眠といった症状がおこりやすくなります。

「気滞」は、気虚の症状に加えて、イライラや、お腹の張り、げっぷなどの身体症状を伴う場合もあります。ひどくなると不安定に変化する痛みが現れる事もあります。

まさに「病は気から」という言葉通り、「気」の不調は様々な不調を引き起こす原因となってしまうのです。


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4.気を調整する漢方

「秋の憂い」にとらわれず、「気」の不調をしっかり整えてこころの身体もすっきりしたいなら、漢方薬を取り入れてみてはいかがでしょうか?気になる症状にあわせて数多くの処方があります。

今回は、症状別の処方をご紹介しますので、参考にしてみて下さいね。

① 気虚を整えるための「補気剤」

六君子湯
(リックンシトウ)
食欲不振、食後の腹部膨満感、胃内に水分が停滞している方に
補中益気湯
(ホチュウエッキトウ)
病気や過労などで疲労困憊した時や、身体虚弱に
参苓白朮散
(ジンレイビャクジュツサン)
消化不良や軟便、水様性下痢、食欲不振が著しい方や、全身倦怠感がある方に
帰脾湯
(キヒトウ)
疲れやすく胃弱で、さらに過労や疲労が重なり、不安感、不眠の症状がある方、不正出血や、内出血しやすい方、貧血気味の方に
加味帰脾湯
(カミキヒトウ)
帰脾湯に準ずる。加えてのぼせやほてり、イライラのある方に

  

② 気を巡らせるための「理気剤」

半夏厚朴湯
(ハンゲコウボクトウ)
胸のつかえや、のどの不快な閉塞感があり気分が優れない方に
香蘇散
(コウソサン)
頭痛や頭重感、耳鳴り、肩こり等があり、胃腸虚弱からくる腹満・腹痛・悪心・嘔吐を伴うときに
釣藤散
(チョウトウサン)
イライラやのぼせを伴って、めまい、朝方の頭痛、目の充血などがある方に ※中高年以降の高血圧のある方、神経質な方に合う
抑肝散
(ヨクカンサン)
イライラして興奮しやすい。腹満感・食欲不振、筋肉緊張気味。小児のひきつけの処方としても
平胃散
(ヘイイサン)
胃もたれ、胃に食べ物や水が残りやすい方に

 

③ 気持ちのたかぶりを鎮めて穏やかにする「安神剤」

甘麦大棗湯
(カンバクタイソウトウ)
泣いたり笑ったり興奮が激しい時。不眠傾向であくびが頻発する方に
酸棗仁湯
(サンソウニントウ)
心身が疲弊している方、考え事が巡り気分が昂ぶって眠れない方に
柴胡加竜骨牡蛎湯
(サイコカリュウコツ
ボレイトウ)
イライラや、気分がふさいで不安感があり、よく眠れない方に
桂枝加竜骨牡蛎湯
(ケイシカリュウコツ
ボレイトウ)
よく眠れず、動悸がする、寝汗、脱毛がみられる方に

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今回は、「秋の憂い」で起きやすい「気の不調」に、おすすめの漢方薬をご紹介しました。

気虚・気滞が、身体やこころの症状の原因になるだけでなく、ストレスがきっかけとなり気虚・気滞が生じたりひどくなったりすることもあります。

仕事や家事のストレスや、いつまでも心から離れないモヤモヤが続くようなら、ハーブティーを淹れて一息つく時間を持ってみてはいかがでしょうか?香りの高いハーブは気を巡らせる作用があるので、ミント、ジャスミン、カモミール、リンデン等がぴったりです。ラベンダーやローズをお好みのお茶に少量加えてもいいですね。

また、気分が下向きだと姿勢も自然に前かがみになりがちです。意識的に胸を広げて大きく息をしてみましょう。簡単な気分転換になりますよ。

「憂い」を引き起こしやすい今だからこそ、大きな変化で傷ついたり使いすぎたりした「気」を、調整していきましょう。

自然の薬箱1階にある漢方相談薬局では、女性薬剤師が丁寧にお話を伺った上で、お一人お一人にぴったりなものをご紹介しますので、お気軽にご相談ください。

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次回の「Naturalist Web Magazine_Vol.26」では、

「ヨガで骨を丈夫にしよう!」をお届けします。

ヨガは、自律神経を整えたり、筋肉を動かして姿勢を整えたりと、体に良いことがたくさんありますが、「骨」にもとても良い刺激与えていることは知っていますか?今回は、特にすべての女性に知ってほしいヨガと骨の関係についてを自然の薬箱のヨガインストラクターよりお届けします。 

※ 次回予告内容は、変更になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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過去の<Naturalist Web Magazine>バックナンバー

Vol.24_「 秋は憂い(うれい)の季節 」東洋医学的ストレス解消のヒント!

Vol.23_アロマセラピストの本棚から

Vol.22_秋の養生 ~「温燥」のための薬膳 ~

Vol.21_まだまだ注意!秋の「脱水症状」

Vol.20_9月9日は重陽の節句!菊の伝統文化のたしなみと漢方薬のお話

Vol.19_季節の変わり目に知っておきたい!自律神経と目の関係って?

Vol.18_ブルーの精油『ジャーマンカモミール』の涼し気なアロマソープを手作りしよう!

Vol.17_残暑を乗り切るために!脾胃(ひい)を整えるための薬膳のススメ

Vol.16_ステイフォーム中にチャレンジ!コロナ太りを解消するには?

Vol.15_夏バテしている場合じゃない!夏に役立つ漢方薬

Vol.14_鍼灸師おすすめ!夏のマスク不調の解消&予防法!

Vol.13_健やかで美しい暮らしのためのあれこれ

Vol.12_薬膳で暑気払い!酷暑を乗り切ろう!

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Vol.10_お顔と頭のツボでリフレッシュ!

Vol.9_今だから知っておきたい!運動と免疫の関係って?

Vol.8_ 手指消毒の手荒れが気になる今!ハンドケアアイテムを手作りしよう!

Vol.7_むくみを解消!内湿を取るための薬膳

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Vol.2_腸活で<免疫機能>をキープ&アップ! 

Vol.1_知っておきたい!肺炎と免疫機能のこと 

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