薬膳茶で気血水のバランスを整えよう
薬膳というと、一昔前は「薬臭い中華料理」なんていう印象をお持ちの方も多かったのですが、ここ最近は、薬膳に対する正しい認識が広まり、身近な食材にも体に対する様々な働きがあり、その働きや特徴を活かした「からだとこころを整えるお料理」として、多くの方に受け入れられています。
自然の薬箱でも、薬膳関連の講座はとても人気。食を通してご自身やご家族の健康について目を向ける方が増えてきていることを日々実感しています。
薬膳というと難しく感じられるかもしれませんが、実際には、ご自分やご家族のちょっとした不調や、季節に起こりやすい症状の予防に対して、食材や調理法を選んで食事を作ることも日々に根ざした大切な薬膳だといえるでしょう。
また、薬草をブレンドして作る薬膳茶は、薬膳に興味を持ち始めた方から本格的に取り入れている方まで人気を集めています。最近では、SNSでオリジナルブレンドや薬膳茶を使ったスイーツなどをアップされている方が増えていますよね。手軽に飲める薬膳茶は、生活に取り入れやすい薬膳のひとつなんです。
そこで今回は、この薬膳茶について解説しながら、気のバランスを整えてくれる薬膳茶素材や、手軽なブレンド方法などをご紹介します。
日々の生活に薬膳茶を取り入れて、身体を内側から整えてみませんか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<目次>
1. 薬膳茶とは
薬膳茶は、中医学(中国伝統医学)の考え方をベースに、からだやこころを整えるために飲むお茶のことです。
薬膳茶の素材は、烏龍茶やプーアル茶、紅茶、緑茶などの茶葉以外にも様々なものがあります。例えば、ジャスミンやハマナス、菊などの薬草の花、薄荷や桑、ドクダミなどの枝葉、ナツメやクコなどの果実、黒豆や、みかんの皮、人参や桔梗などの根といったさまざまな薬草を使います。
薬膳茶というと、「漢方薬みたいに苦いのかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、ブレンドの仕方によって、見た目も華やかでおいしいお茶が出来上がるんですよ。おいしい上に健康効果があって、見ているだけでも癒される薬膳茶は、心も体もほぐしてくれる手軽に取り入れられる「食養生」ともいえるでしょう。
2. 薬膳茶を選ぶには
薬膳茶の素材は「どんなものが使えるのか」、また様々な種類があるので「どれを選んだらいいかわからない」という方が多いと思います。そこで、薬膳茶の素材を選ぶときは、何らかの目的を持って考えます。
例えば、冷えを治したい、むくみをとりたい、肩こりをなくしたい、ぐっすり眠りたい、胃腸の調子を良くしたいしたいなど、様々なお悩みが目的となるわけですが、その症状は、どうして現れているのかを考えたことはありますか?
実は「中医学」には、その症状の原因を見立てる方法がたくさんあるんです!そこが「中医学」ならではの、素晴らしい点なのです。
「中医学」は、からだのバランスのどこが崩れると、どのような症状が出やすいかが体系的にまとめられている伝統医学です。少し用語が難しいかもしれませんが、陰陽・虚実・寒熱・表裏のバランス、気血水のバランス、ダメージを受ける臓腑など、様々な角度から見立てていきます。でも、どうしても難解に感じてしまいますよね。
そこで今回は、そのなかでも比較的わかりやすい「気血水」について解説しながら、気血水のバランスを整えることによって、からだの不調を緩和していく素材選びの方法をお伝えします。
症状の原因がわかれば、自分にぴったりな薬膳茶を選べるようになりますよ。
3. 体のバランスの指標「気血水」とは
「気血水(きけつすい)」とは、体の中の3つの重要な要素をさします。簡単に説明すると、「血」は血液とその機能も含んで表現される概念、「水」は体液とその機能も含んで表現される概念です。これらは、血液や体液といった目に見えるものですし、体を構成する重要な要素としてもイメージしやすいですね。
そしてもうひとつ、東洋医学で重要な要素として「気」があります。「気」は目に見えないエネルギーや元気、気力のようなもの。体の中をぐるぐると巡り、「気」がめぐることによって、「血」や「水」を動かしていくと考えられています。
楽しいことがあってウキウキしているときは、気が巡っていてからだが軽く、嫌なことがあったり、気が進まなかったりすると、気が停滞して、血液も体液も巡らないのでからだが重く、頭痛になったり、風邪を引いてしまったりと…、このような経験は、誰もが体験したことがあるのではないでしょうか。
体の中の3つの要素である「気」「血」「水」が、具体的にどのような機能を持っているか、それぞれご紹介しましょう。
※中医学では、「水」のことを「津液(しんえき)」と呼びますが、ここでは簡単に「水」として説明いたします。
◎「気」の機能
① 推動作用(すいどう)
人体の成長・発育および全ての生理活動を促す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ② 温煦作用(おんく) 体を温めることによって、臓器・組織・器官の機能を活発にする。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ③ 防御作用 病気の原因物質(外邪)の侵入を防ぎ、排除する作用。免疫機能に相当。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ④ 気化作用 ある物質を他の利用可能な物質に変化させる。 例)気と津液で血液を作る。体液から汗や尿を作る。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ⑤ 固摂作用(こせつ) 血、津液(尿や汗)などが過度に体外に出ないようにする。 臓器を正しい位置に保つ。 |
◎「血」の機能
① 養栄作用(ようえい)
全身の臓器・組織・器官を栄養し、正常な生命活動を維持する。 筋肉に燃料や酸素を運ぶ、全身に栄養や熱を運ぶ、五感の機能を保つ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ② 滋養作用(じよう) 全身の臓器・組織・器官に潤いを与える。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ③ 精神意識活動の基礎物質 思考や決断などの精神神経活動の燃料となる。精神を安定させる。 |
◎「水」の機能
① 滋潤作用(じじゅん)
皮膚や粘膜を潤し、汗などとなって余分な熱や老廃物を排泄する。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ② 濡養作用(じゅよう) 体内の深部や組織体を巡り、臓器に栄養を届けたり、関節内の滑液となって関節の動きを滑らかに保つ。 |
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
4. 気のバランスの不調「気虚」と「気滞」
では、「気血水」の3つの要素のバランスが崩れたとき、どのような症状が起こるかを紹介していきます。今回は、「気」のバランスの乱れについてご紹介しますね。
「気」のバランスの乱れは、大きく分けて、「気」が少なくなって元気がなくなってしまう「気虚(ききょ)」と「気」が巡らずにとどこおってしまう「気滞」があります。それぞれ、どのような症状が現れるか見てみましょう。
【気虚の症状】
・体がだるい・気力がない・疲れやすい・発育不全
・冷え・下痢・むくみ
・風邪などの感染症にかかりやすい
・食欲不振・消化不良・痩せる
・皮下出血・胃下垂などの内臓下垂
【気滞の症状】
・抑うつ・憂鬱・イライラ・パニック障害・怒りやすい
・喉のつかえ感、みぞおちの痞え、胸やお腹が張る、ゲップやガスがでやすく、出ると楽になる・嘔吐・悪心など
・頭重感・めまい・のぼせ・ほてり・手足の冷え
・咳嗽・喘息などの悪化
普段は目に見えない「気」ですが、現れてくる症状を見ると、からだの様々な不調に関わっていることがわかります。だからこそ、気を補う薬膳素材を用いることで、「気虚」によって起こっている様々な不調が一度に解消されるということもあるのです。
逆に「気虚」による、上記のような一連の症状があまり見られない場合、治したい症状は、別の要素のバランスの崩れから起こっているのではないか?と考えます。
例えば、同じ「冷え」という症状でも、からだ全体が冷える「気虚」によるものもあれば、末端が冷たくなる「気滞」によるもの、頭部がのぼせて足が冷える血流が低下している「瘀血」によるものなど、原因は実に様々なのです。
まずは、今の症状が「気」の乱れにあるのかを調べてみましょう。下記の該当する項目の点数を①黄色のブロックと②オレンジのブロックで足し算してください。
<①黄色のブロック>
1. 疲れやすい | 5 |
2. 風邪をひきやすい | 5 |
3. 息切れがしやすい | 5 |
4. 声が小さく力がない | 3 |
5. 胃もたれしやすい | 4 |
6. 軟便・下痢をしやすい | 4 |
7. 頻尿・夜間尿がある | 4 |
<②オレンジのブロック>
1. 不安・憂鬱感があるか、又はイライラしたり怒りっぽい | 6 |
2. 片頭痛がよく起こる | 4 |
3. 喉にものが詰まったような不快感がある | 4 |
4. おなかが張り、げっぷやガスが多い | 5 |
5. 下痢と便秘を交互に繰り返す | 3 |
6. 月経周期が不順、又は月経前に乳房や腹部が張る | 5 |
7. 眠れない、夢が多い | 3 |
- ①黄色の点数が高かった方・・・・・気虚(ききょ)タイプ
- ②オレンジ色の点数が高かった方・・気滞(きたい)タイプ
足し算した点数が高いほど、そのタイプのバランスの崩れを強く持っているといえます。
各ゾーン 合計点数 |
アドバイス |
7点以下 | その体質の素因はありますが、注意していれば大丈夫です。 必要に応じて食養生を取り入れてみましょう。 |
8~14点 | 放っておくと、その体質の症状が進みます。 食事や生活の改善、漢方などを始めてみましょう。 |
15~22点 | まさに該当するタイプの体質を強く持っています。 食事や生活を見直すとともに、中医学の詳しいチェックを受けてみては。 |
23点以上 | 体の不調に悩まされているはず。 食事や生活の改善だけでなく、中医学と西洋医学の受診をお勧めします。 |
気のバランスは、季節や生活の状況によって日々変化します。ときどきバランスの乱れチェックをしてみてくださいね。
5. 気のバランスを整える薬膳茶素材のご紹介
気のバランスチェックが終わったら、症状にあわせた薬膳素材を探しましょう。今回は、気を補うはたらきのある素材と、気を巡らせるはたらきのある素材をそれぞれ4種類づつご紹介します。適応症状やブレンドのコツも記載していますので、参考にしてください。
【気を補うはたらきのある薬膳素材 ④種】
① ルイボス
・基原:Aspalathus linearisルイボス(マメ科)
・用部:葉および枝
・作用:抗酸化、精神安定、強壮、抗アレルギー、鎮痙、抗菌作用など
・適応:心身の疲労、貧血、肌荒れ、老化、下痢、便秘、アトピーなど
・体質:血虚タイプ・気虚タイプ・気滞タイプ
・ブレンドのコツ:おいしいベースとして
② 大棗 (タイソウ)
・基原:Ziziphus jujuba ナツメ(クロウメモドキ科)
・用部:果実
・作用:健胃、鎮痙・鎮痛、強壮、養血、精神安定、薬性緩和作用など
・適応:疼痛、腹痛、イライラ、腹痛など
・体質:気虚タイプ・血虚タイプ・陰虚タイプ
・ブレンドのコツ:甘味がほしいときに
③ 甘草 (カンゾウ)
・基原:Glycyrrhiza uralensisまたは、G. glabraカンゾウ(マメ科)
・用部:根と根茎
・作用:鎮痛、鎮咳、去痰、解熱、消炎、鎮静、健胃、強壮作用など
・適応:筋肉の急激な緊張による疼痛、胃痛、咽喉痛など
・体質:気虚タイプ
・ブレンドのコツ:しっかりとした甘味がほしいときに少量使う
④ 桂皮(ケイヒ)
・基原:Cinnamomum cassiaケイ(クスノキ科)
・用部:樹皮
・作用:健胃、駆風、保温、解熱、鎮痛、鎮静、発汗作用など
・適応:頭痛、冷え、のぼせ、感冒、疼痛など
・体質:気虚タイプ・血虚タイプ・瘀血タイプ
・ブレンドのコツ:甘味と風味付けに加える
【気を巡らせるはたらきのある薬膳素材 ④種】
① 薄荷(ハッカ)
・基原:Mentha arvensisハッカ(シソ科)
・用部:地上部
・作用:鎮痙・鎮痛、運動抑制、末梢血管拡張、利胆、消炎、抗アレルギー、止痒、抗菌作用など
・適応:心身の疲労、感冒、咽喉痛、頭痛、目の充血など
・体質:気滞タイプ・瘀血タイプ・陰虚タイプ
・ブレンドのコツ:爽やかな味のベースとして
② 紫蘇(シソ)
・基原:Perilla frutescensシソ(シソ科)
・用部:葉
・作用:発汗、理気作用など
・適応:鼻閉、頭痛、悪寒、発熱など
・体質:気滞タイプ
・ブレンドのコツ:陳皮・生姜・大棗・クコと合う
③ 陳皮 (チンピ)
・基原:Citrus Unshiuウンシュウミカン(ミカン科)
・用部:果皮
・作用:健胃、鎮咳、去痰、中枢神経抑制、抗痙攣、抗炎症、抗アレルギー作用など
・適応:食欲不振、腹部膨満感、嘔吐、疼痛、咳など
・体質:気滞タイプ
・ブレンドのコツ:風味と色合いに少量加える
④ 玫瑰花(マイマイカ)
基原:Rosa rugosaハマナス(バラ科)
用部:花蕾
作用:緊張緩和、血流改善、保温作用など
適応:頭痛、上腹部痛、神経性胃炎、下痢、月経過多など
体質:気滞タイプ・瘀血タイプ
ブレンドのコツ:風味と色合いに少量加える
6. ブレンドのコツと薬膳茶レシピ
症状に合わせた薬膳素材を見つけたら、早速ブレンドしてみましょう!はじめての方も、あまり難しく考えずにチャレンジしてみてください。
はじめての方でも美味しくブレンドするコツは、ベースのお茶を決めて配分量を多めにすることです。ベースのお茶の量を決めたら、目的別の薬膳素材を1〜3種類ほど加えるところから始めてみましょう。薬膳素材は主として東洋ハーブが使われることが多いですが、西洋ハーブと組み合わせてもOKです。また、これからご紹介するブレンドのヒントやおすすめレシピを参考にして、あなた好みの薬膳茶を楽しんでください。
ブレンドの仕方のヒント
・ベースのお茶を選ぶ
・体質や症状に合ったものを選ぶ
・香りから味を想像して選ぶ
・色合いで楽しむ
・3~5種類くらいでブレンドしましょう
薬膳茶の煎れ方
・全体の量が3〜5gになるようにブレンドし、ポットに入れてお湯を300cc程注ぎ、必ず蓋をして3〜10分蒸らします。
・葉や花のみのブレンドのときは短めに、種や根、樹皮など硬い素材が入るときは長めに蒸らし、茶こしで濾してカップに注ぎます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後に「気」のバランスを整えるレシピを2つご紹介しますね ♪
~自然の薬箱おすすめ~
「気」のバランスを整える薬膳茶レシピ
① 気力アップのためのブレンド
「気虚」タイプの方に。覚醒作用とリラックス作用のある緑茶をベースに、気を補う働きのある甘草、気を巡らせる陳皮をブレンド。ほのかなラベンダーの香りと甘草の甘味が、緑茶の美味しさを引き立てます。
2~4人分
・緑茶 | 2.5g |
・ラベンダー | 0.5g |
・陳皮 | 1.5g |
・甘草 | 0.5g |
② 安眠ブレンド
「気滞」タイプの方に。ノンカフェインのルイボスティーをベースに、気を巡らせて緊張を和らげる玫瑰花、気を補いながら精神安定の働きのある大棗をブレンド。鎮静作用もあるレモンバーベナのレモンの香りとほのかな大棗の甘味でほっと落ち着くお茶になります。
2~4人分
・ルイボス | 1.5g |
・レモンバーベナ | 0.5g |
・玫瑰花 | 1.0g |
・大棗 | 2.0g |
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回は薬膳茶についてご紹介しました。自分好みのオリジナルブレンドを見つける楽しみもある薬膳茶は、手軽に毎日続けられる食養生の一つです。今回は「気」の乱れによる症状を改善する薬膳茶をご紹介しましたが、この他にも様々な症状に合わせた素材やブレンドが存在します。
気になる症状がある方は、自然の薬箱の1階漢方相談薬局にお気軽にご相談ください。店頭では、薬膳茶素材の量り売りや、ご体質やご体調を伺っての薬膳茶のブレンドも行っています。
※薬膳茶ブレンドをご希望の方は、対応できない時間帯もございますので、お電話にてご予約いただけると安心です。
毎日飲むお茶を薬膳茶に変えて、手軽にできる食養生を始めてみませんか?飲み続けていくうちに、からだの内側からすっきりできますよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<次回「Naturalist Web Magazine」のお知らせ>
「Naturalist Web Magazine_Vol.93」では、
「姿勢筋を鍛えてバレリーナのような美しい姿勢を手に入れよう!」をお届けします。
バレリーナのような凛とした美しい姿勢に、憧れる方は多いのではないでしょうか?実はバレエの体の動かし方には、柔軟性に優れた筋肉を作り、関節可動域を広げるだけでなく、体感や骨盤を鍛えて姿勢を整える効果があるのです。
そこで次回は、自然の薬箱ボディーワークスタジオで、バレエメゾットを取り入れたレッスンを担当するインストラクターAMIが、バレエが姿勢改善につながる理由を解説しながら、ご自宅でも簡単にできるバレエのポーズをご紹介します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バックナンバーの一覧を見る >> |
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー