漢方薬剤師がお伝えします!
~冬の養生法と症状別おすすめ漢方薬~

日中は、日差しも多く過ごしやすい気温が続いていますが、夜になるとぐっと冷え込むようになりました。徐々に冬が近づいてきているようですね。

毎週火曜日にお届けしております、自然の薬箱の「Naturalist Web Magazine」。

皆様が穏やかな日常を取り戻せるその日まで、健やかに過ごせるお手伝いが出来ればという思いを込めて、Vol.30をお届けいたします。

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空気が乾きがちになり、気温も低くなり始める今頃から、漢方相談薬局には冷えや風邪などの不調を訴える方が増えてまいります。さらに、新型コロナウイルスの再流行の兆しがある今、例年以上に体調管理に敏感になりますよね。まだ相談するほどではないと思いながらも、小さな不調や不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

今はまだ、体感的に晩秋のイメージがありますが、暦の上ではすでに冬。東洋医学の考えでは、今は「冬の養生」が必要な時期となります。そのため、立冬(11月上旬)~立春(2月上旬)までの約3か月の間は、身体を温めて体調を崩さないようにすることが大切とされています。

また、冬は五臓のうち「腎」が影響を受けやすい時季。「腎」は、免疫機能とも関わりがあるので、ウイルス感染症が流行しやすい冬にはしっかりと養生したいものです。

そこで、今回は東洋医学の知恵による冬の養生方法や、この時季に多い冷えや風邪におすすめの漢方薬を、自然の薬箱の漢方薬剤師 安田朋子 がお伝えいたします。

身体を温め、腎の養生をしっかりして厳しい冬を乗り越えられるよう、身体を整えていきましょう。

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<目次>

1.東洋医学の知恵による冬の養生とは?

2.冬の養生の仕方とは?

3.冬の冷えにおすすめ漢方薬

4.風邪かも?と思ったら ~症状別おすすめ漢方薬~


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1.東洋医学の知恵による冬の養生とは?

東洋医学では、冬は寒さから身を守るために力を体の奥に蓄えておく季節。中国最古の医学書である黄帝内経(こうていだいけい)によると、冬の3か月は「閉蔵(へいぞう)」といい、万物が門戸を閉ざして静かに閉じこもる季節とされています。

冬の養生については、このように書かれています。

冬三月、此謂閉蔵。
水冰地坼、無擾乎陽。
早臥晩起、必待日光、使志若伏若匿、若有私意、若已有得。
去寒就温、無泄皮膚、使気亟奪。
此冬気之応、養蔵之道也。
逆之則傷腎、春為痿厥、奉生者少。    『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』より

これは、どのような内容かといえば・・・

冬の3ケ月を「閉蔵」といいます。万物の動きが静かになります。
気温が低下して、自然界の陽気が減少し、陰気がもっとも盛んな季節になります。
冬の養生法として、
・夜は早く寝て、朝は太陽が昇って暖かくなってから起き出しましょう。
・意識的に外出や活動を減らして、静かに暮らしましょう。
・体内の陽気を消耗しないように、寒さを避け、身体を暖かくしましょう。

自然の摂理に従えば、冬は動植物は活動を停止し、耐えて春を待つ季節。夏のように活発に過ごしてしまうと、蓄えておくべき力を放出してしまい、寒さに熱を奪われて力を消耗してしまいます。そのためにも、活発に動くのではなく静かに過ごし、身体を冷やさないことが大切なんですね。

さらに、冬は五臓の中で生命力をつかさどる「腎」の働きが弱くなりやすい季節でもあります。「腎」は、発育・生殖・老化をつかさどるほか、体の水分調節と、熱を生み出す根源であり、生命力の源と考えられているので、「腎」をいたわることは、免疫機能を維持することに繫がります。これからの季節、ウイルス感染を防ぐためにも腎の養生を心掛けることが重要です。


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2.冬の養生の仕方とは?

では、冬の養生法にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは3つの養生法をご紹介しましょう。

① 心穏やかに、早寝遅起しましょう
冬は、できるだけ感情の起伏を少なくし、静かに、楽観的に過ごしましょう。ゆっくりになった日の出とともに働き、日が沈んだら休むのが理想です。無理をせず、体力を消耗しないようにしましょう。

② 身体を温める食物や、「腎」を補う黒い食べ物を積極的に食べましょう
冬は、生ものや冷たい飲み物などは避け、身体を内側から温める食材や、「腎」の働きを助けて、免疫機能を高めてくれる食材を取り入れるのがおすすめです。代表的な食材をご紹介しましょう。五臓で、冬に当てられた色は黒。黒い食物は「腎」を補うと言われていますので、献立に積極的に採り入れると良いですね。

体を温める食物【補陽】 「腎」を補う食物【補腎】
羊肉、もち米、栗、ナツメ、クルミ、杏仁、ニラ、パセリ、かぼちゃ、生姜、玉葱、ニンニク、サツマイモ、ダイコン 海藻類、黒ゴマ、黒豆、黒きくらげ、玄米、高麗人参、やまいも

③ 外から来るストレス「寒邪」に気を付けましょう
「寒邪」が身体に侵入し冷えると、風邪をひいたり、手足や関節を冷やしてしまい、痛みを発してしまうことがあります。冷えから体を守るためにも、大きな血管が集まっている身体の中心部である、おなかや腰、おしりを温めましょう。手足の先が冷える場合も、まずは身体の中心部を温めるのが効果的です。腹巻やスパッツ、使い捨てカイロなどで、おなかからおしりにかけて、しっかり温めましょう。


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3.冬の冷えにおすすめ漢方薬

冬の養生を行っていても、なかなか冷えが改善されない場合は、漢方薬の力を借りて身体を温めてみませんか?実は、冷え性には色々なタイプがあります。こちらでは、冷えの原因別におすすめ漢方薬を紹介いたしますので、ご自身の症状に近いものを選んでみてくださいね。

症状 おすすめ漢方薬
・陽気不足
・全身が冷えている方
体の中をめぐる陽気は、正常な体温を保つ働きがあり、「腎」が生み出します。不足すると身体を温める力が弱くなり、冷えを感じます。
真武湯
(シンブトウ)
人参湯
(ニンジントウ)
八味地黄丸
(ハチミジオウガン)
・血行不良
・身体が冷え、肩こり、痺れなどがある方
血流が悪いことが多いです。血流が悪くなる原因も多様です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯
(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)
当帰芍薬散
(トウキシャクヤクサン)
温経湯(ウンケイトウ)
・気血不足
・手足が冷え、疲労、食欲不振などがある方
気(エネルギー)、全身に栄養を届ける血が不足している状態です。
十全大補湯
(ジュウゼンタイホトウ)
人参養栄湯
(ニンジンヨウエイトウ)
婦宝当帰膠
(フホウトウキコウ)
婦人宝(フジンホウ)

 


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4.風邪かも?と思ったら ~症状別おすすめ漢方薬~

秋から冬にかけては、朝晩の気温の変化や乾燥で体調を崩し、風邪をひきやすくなります。風邪かな?と思ったら、まずは身体を温めて治癒を早めることが大切です。そして、風邪の経過や、症状にあわせてお薬を選びます。ここでは、代表的な症状に合わせた漢方薬をご紹介しましょう。

症状 おすすめ漢方薬
風邪の初期、ゾクゾクする時 葛根湯(カッコントウ)
悪寒、倦怠感がある時。くしゃみ、鼻水に。 麻黄附子細辛湯
(マオウブシサイシントウ)
筋肉痛、関節痛の強い時 麻黄湯(マオウトウ)
喉が痛い時、熱っぽい時 銀翹散(ギンギョウサン)
くしゃみ、鼻水、咳に 参蘇飲(ジンソイン)
痰が黄色で、咳が出る場合 麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)
痰が切れない咳に 麦門冬湯(バクモンドウトウ)
風邪後期の長引く微熱に 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
五積散(ゴシャクサン)
胃腸風邪初期の下痢・ムカムカに 藿香正気散(カッコウショウキサン)
食べると下痢をするときに 真武湯(シンブトウ)

ご紹介した漢方薬は、異なる商品名で店頭に並んでいる場合がございますので、お気軽にスタッフにお尋ねください。尚、店頭にない処方も簡単な問診でご希望の日数分を処方させていただくことも可能です。

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漢方は、からだ全体のバランスを整え、ご自身の自然治癒力を引き出していきます。ご不明な点やご相談などございましたら、自然の薬箱の漢方相談薬局にお気軽にご相談ください。

また、この機会にしっかりと相談の上、処方をご希望される方には、女性薬剤師による漢方相談(要予約・相談時間 1時間~1時間半程度)を承っております。ご来店が難しい場合は、Zoomによるオンライン相談(30分程度)も可能です。その際は、事前にメールにて問診を実施させていただきます。

ご予約・ご質問はお電話 052-734-3004 または、お問合せフォームよりご連絡ください。

<漢方相談時のご購入についてのお願い>
漢方相談をご利用いただく場合は、10日分以上のお薬のご購入をお願いしておりますので、ご了承願います。(相談料は無料・1日分 税込 550円)

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今回は、冬の養生と症状別おすすめ漢方薬についてご紹介いたしました。

今年の冬は、新型コロナウイルスをはじめ、インフルエンザや風邪など感染症対策が今まで以上に必要です。マスクに手洗い・うがいはもちろん、身体の内側にも目を向けて養生することも予防の一つ。

皆さん、寒さにもウイルスにも負けないよう、しっかりと養生しましょう!

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次回の「Naturalist Web Magazine_Vol.31」では、

「 呼吸の科学 ~鼻呼吸のメリット~ 」をお届けします。

皆さんは、呼吸を意識したことはありますか?呼吸に意識を向ける機会は、普段あまりないかもしれませんが、呼吸の中でも「鼻呼吸」は、体に様々な良い影響を与えているのをご存じですか?

そんな呼吸の科学を、皆さんにお伝えしていきます。

※ 次回予告内容は、変更になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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~「Naturalist Web Magazine」は、毎週火曜日の配信予定~

今後も、自然の薬箱ならではの様々な情報を予定しています。どうぞお楽しみに。

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過去の<Naturalist Web Magazine>バックナンバー

Vol.29_頑張りすぎて、くいしばっていませんか?

Vol.28_睡眠について考えてみよう!~身体や脳との関係~

Vol.27_薬膳で肺機能を高めて、免疫機能をアップ!

Vol.26_知ってほしい!骨とヨガの関係

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Vol.17_残暑を乗り切るために!脾胃(ひい)を整えるための薬膳のススメ

Vol.16_ステイフォーム中にチャレンジ!コロナ太りを解消するには?

Vol.15_夏バテしている場合じゃない!夏に役立つ漢方薬

Vol.14_鍼灸師おすすめ!夏のマスク不調の解消&予防法!

Vol.13_健やかで美しい暮らしのためのあれこれ

Vol.12_薬膳で暑気払い!酷暑を乗り切ろう!

Vol.11_知っておきたい!東洋医学の知恵と夏の過ごし方

Vol.10_お顔と頭のツボでリフレッシュ!

Vol.9_今だから知っておきたい!運動と免疫の関係って?

Vol.8_ 手指消毒の手荒れが気になる今!ハンドケアアイテムを手作りしよう!

Vol.7_むくみを解消!内湿を取るための薬膳

Vol.6_長期戦に備えよう!慢性疾患のある方も必見!身体を整えるための漢方薬

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Vol.4_お灸で免疫機能アップ!~セルフお灸のススメ<基本編>~

Vol.3_ストレスに負けない!心と身体を作る小さなアイデア 

Vol.2_腸活で<免疫機能>をキープ&アップ! 

Vol.1_知っておきたい!肺炎と免疫機能のこと 

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